世界にはさまざまな植生帯があり、その中には、人と森林のかかわりで特に重要な4つの森林帯があります。
それぞれの森林帯で生み出された多様な木の文化が、具体的な生活においてさまざまに浸透していった様子を展示で再構成いたしました。

世界の代表的な4つの植生

亜寒帯針葉樹林

亜寒帯に発達する森林で、タイガ、北方針葉樹林とも呼ばれている。北半球のユーラシア大陸とアメリカ大陸の周極地帯に分布している。日本では、亜高山帯に広がるが、兵庫県内には分布していない。
雨がやや多いところに発達する常緑針葉樹林(モミ属、トウヒ属など)と、夏と冬の気温差が大きく乾燥気味の所に発達する落葉針葉樹林(カラマツ属など)に大別される。樹冠はモミ属、トウヒ属、マツ属、カラマツ属などから構成され、林床にはスゲ類、コケ類、コケモモなどが見られる。

亜寒帯針葉樹林

夏緑林

冷温帯の比較的雨の多い地域に発達する落葉広葉樹林の一つで、東アジア、ヨーロッパ、北アメリカなどに広がり、日本の山地帯、兵庫県では氷ノ山、三川山、六甲山などにわずかに残存している。冬季の落葉の他、春季の新緑、秋季の落葉と四季感があり、景観的に美しい。樹冠は25m程度に達する。
森林の構成種としては、紅葉の美しいモミジ類、ナナカマド、ツタウルシなど。木材として用いられるナラ類、トチノキ、ホオノキ、トネリコ類など。早春に開花するアネモネ類、トリリウム、バリスや、外国産種のシュガーメイプル、リンデンバオム、マロニエなどがある。中でもブナ林は最も代表的な夏緑林の一つである。
夏緑林

照葉樹林

温帯の多雨地域に発達する常緑広葉樹林の一つで、西南日本、中国南部、フロリダ半島、熱帯山岳地帯などに分布している。日本では神社や寺院に保護されて残っている場合が多く、但馬の絹巻神社、宇都野神社にも大規模な樹林がある。クチクラ層のよく発達した光沢ある葉(照葉)を持つ樹木から構成され、積乱雲状の樹冠は30mに達する。
この樹林の植物は、サカキ、シキミ、オガタマノキなど祭儀に用いる樹木や、ツバキ、サザンカ、クチナシ、ヒイラギなど庭園木として身近なものも多い。県木のクスノキもその一つである。また照葉樹林文化とは、東アジアの照葉樹林地帯に発達した基層文化のことを言う。

照葉樹林

熱帯雨林

熱帯の多雨地域に発達する常緑広葉樹林の一つで東南アジア、アフリカ、アメリカの広範囲にわたって分布する。最も発達したさまざまな生物を持つ樹林で、比較的大きな尖端の滴下先端と呼ばれる葉を持つ植物が多く、絞め殺し植物、大型ツル植物、大型着生植物、木生シダ植物、幹生花、板根など他の樹林では見られないものもあり、超高木層は70mにも達する。ドリアン、マンゴスチン、ランブータンなどの果木、フタバガキ、コクタン、シタンなど木材として利用される樹木、ビャクダン、ジンコウ、バニラ、チョウジなど香料として用いられる植物など有用植物の宝庫である。しかし、近年は伐採が進み、この樹林は大幅に減少している。

熱帯雨林

各植生にみられる木造民家 

亜寒帯針葉樹林

エリザーロフ家
カレリア自治共和国
ロシア 1880年

ロシアとフィンランドが接するカレリア地方、オネガ湖周辺の民家には、針葉樹のマツ、モミ、ヤマナラシの丸太を横に積み上げる井楼組の手法が壁に用いられている。外階段を上がった2階に居間と寝室があり、その下と裏側に広い納屋や物置がある。

居間の片隅には大きな暖炉(ペチカ)があり、冬季には家禽を含めて家族の全員がここに集まる。暖炉に向かって反対側の窓際の隅が聖なる場所で、聖画(イコン)を飾り、来客がそこに座る。
緩やかな勾配の切妻屋根は槫板葺き。その破風板や開き窓の額縁はこの地方独特の木彫りで飾られ、長い冬の生活に潤いを与えている。

夏緑林

ラウビ家(旧ロンバッハ家)
バーデンビュルテンブルク州
ドイツ 1781年

ドイツ南端フライブルク近くのオーベルリートで住み継がれている大きな木造の農家。シュバルツバルト(黒い森)に伝わる高い棟持柱を寄棟屋根の形に手を加え、北側の屋根を切り削ぐことで2層の居室に日照と眺望を与えている。
敷地の高低差を利用して南側3階に荷車が入る通路があり、干し草を小屋根に搬入して蓄え、階下の畜舎に投下しやすくしている。

居室と畜舎の間に大きな暖炉と台所があり、その暖炉が家全体を暖め、屋根葺き材の茅や藁の維持にも役立っていた。落葉広葉樹の大径木を立体的な建物の柱に用いたのは、ヨーロッパでもライン川上流だけの伝統である。

照葉樹林

石全保(シクァンパオ)家
貴州省
中華人民共和国

貴州省都柳江沿岸の斜面に住む現地人は、柱や梁に束や貫を組み合わせた構法(穿闘式)で高床の住居を自在に建てている。2階の中央に炉を置いて居間兼台所にし、山側の南を寝室にしているが、2世帯で利用するため、川側に張り出した縁廊へ階段で上がってから別々に入る。川から見れば吹放ちの縁廊は3階にあり、その床を吊る垂花柱の下端には独特の彫刻が施されていて楽しい。屋根勾配は緩く、杉皮葺きか瓦葺きが普通である。
階下は公道に通じ、脱穀場や畜舎、倉庫がある。村はずれには高床式の群倉があり、稲作と木造建築の伝統が営々と受け継がれてきた地域といえる。

熱帯雨林

シマニンドの家
北スマトラ省
インドネシア

スマトラ島の北部、トバ湖に浮かぶサモシル島シマニンド村のバタック族酋長の家。メランティの柱に貫を通した木組みの上に、厚い板壁に囲まれた高床の住まいが載る。梯子で上がった床の上に採暖と炊事の炉が置かれ、主人とその妻の寝台がある。

風通しのよい階下は畜舎や便所、物置に使われる。階上は聖なる空間で祖霊を祭り、破風側に神楽を奏する縁台を設け、見事な木彫りで全面を飾っている。

ヤシの繊維で葺いた切妻屋根は、木と竹を巧みに組み合わせたバタック族独特の技法で鞍型に反り返り、その美しい曲線と高床の形態から、東南アジア全域を支配していた古い文化の伝統がしのばれる。